昨年の今ごろ、礼真琴さんの体調は極限まで達していたのだと思う。
一幕まで舞台に立ち、二幕から中止というのは異例の中の異例ではないだろうか。
「1789」は6人が写る荘厳なポスターから劇団の並々ならぬ意気込みが伝わってくるものだった。
礼真琴さんご本人もこの作品にかける思いは強かったはずで誰よりも辛く悔しかったことと察する。
数日間の中止の後、代役で公演が再開されることになり私は観劇する機会に恵まれた。
恵まれたという表現は適切でないかもしれないが、一致団結した星組の姿は美しく、礼さんの代役を務められた暁千星さんの悲壮な覚悟に心を打たれた。
大劇場公演前の稽古期間から、出演者は台本や生の舞台と長く向き合っていて自身以外の台詞や立ち位置などもほぼ頭に入っているはずだ。
ただ演じることは簡単ではない。
役の内面を表現できなければ説得力が生まれず、そのために人物像を掘り下げていく過程が必要になる。
たとえ肉親や親友の役で心中を察することはできても本人にはなれず、現実社会で一緒に暮らしている家族と自分の関係と同じと言っても良いかもしれない。
主役の暁さんだけでなく、天華えまさん、碧海さりおさん、鳳真斗愛さんは短い準備時間でそれぞれのお芝居を見せてくれた。
特に本役の碧海さんが得意とするコミカルな場面で鳳真さんが個性を発揮されていたのは強く印象に残っている。
暁さんにとってこの経験はかけがえのないものだったと思う。
もちろん代役公演は決して喜ばしいことではない。
幕が下りるとき、客席に向かって手を振る暁さんが「礼さん、舞台は私たちが守ります。元気で戻ってきてください」と言っているようで胸が詰まった。
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